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学習意欲は原因の求め方によって左右される(原因帰属理論)

2020年8月6日

皆さんは、学校の成績が良かった時、または悪かった時、その原因は何だと思いますか?成績が良かった時は、「自分って、頭がいいなぁ」、「努力したからだ」、「親のおかげだ」、「先生の教え方がよかった」。逆に、成績が悪かった時は、「頭が悪いなぁ」、「試験前にゲームしすぎたなぁ」、「親のせいだ」、「先生のせいだ」と、なぜこの結果だったのかと原因を考えたりしませんか。人は起こった出来事に原因を求めるものです。

ワイナーの原因帰属理論は、学業達成場面において、子どもが主観的に自分の成績が良かった(成功した)、または成績が悪かった(失敗した)と思った時に、その背景にある原因を子どもがどのように理解しているかによって、期待や感情の喚起が異なり、それが次の学習行動の動機づけを促進または抑制するとされます。つまり、子どもが自分のテストの点数をどう評価し、その原因を何に求めるかによって、その後の学習意欲が左右されるというものです。

ワイナーは、学業達成場面の成功・失敗の原因とその原因を分類する次元を見出し、3次元8要因の原因帰属モデルを定式化しています。ここでは簡単に説明します。

成績が良かったと思う時、その原因を自分の能力や努力といった内的要因に求めると誇りや有能感を感じ、その後の努力の量や粘り強さに繋がります。先生の教え方や家庭環境といった時間的に容易に変わらない安定要因に帰属すると、成功期待が維持され、学習意欲が促進されます。

一方、成績が悪かったと思う時に、その原因を自分の能力不足に求めると、能力は内的要因、時間的にも容易に変わらない安定要因、そしてコントロールできない統制不能要因ですので、無能感やあきらめ、恥を感じ、学習意欲は減退します。努力不足に求めると、努力は自分次第で変えられる不安定要因、統制可能要因ですので、内的要因のため自尊感情は低下し、罪悪感やうしろめたさは感じますが、次はできると成功期待は維持され、学習意欲は促進されます。先生の教え方や家庭環境といった外的要因で自分では変えることができない安定要因、統制不能要因に原因を求めると、絶望や怒りを感じ、学習意欲は減退します。

つまり、成績が悪かったと思った時、先生や家庭のせいにしたり、自分は頭が悪いとは思わず、努力が足りなかったと考えることが大切になりそうです。ただ、一生懸命努力したのに成績が良くなかった場合、努力不足と考えるときついですね。そういう場合は、努力の方向性や方法などを検討してみるということでしょうか。

原因の求め方(原因帰属)は、性別や人種、社会経済的背景、親の関わり方によっても異なり、経済的に困難を抱える家庭の子どもであっても保護者の関わり方(子どもへの励ましや学習に必要なものを用意するなど)が良ければ、学習意欲を促進する原因の求め方をすることも明らかになっています。自分の成績を先生や親のせいにするのはよくありませんが、子どもがそのように考えないように、先生や保護者の温かい関わりが重要になりそうです。

参考文献:

Weiner, Bernard, 1979, “A Theory of Motivation for Some Classroom Experiences,” Journal of Educational Psychology, 71(1), pp.3-25.

―――1985, “An Attributional Theory of Achievement Motivation and Emotion,” Psychological Review, 92(4), pp. 548-573.

―――2010, “The Development of an Attribution-Based Theory of Motivation: A History of Ideas,” Educational Psychologist, 45(1), pp.28-36.

  • この記事を書いた人

リリィ

36歳で大学生、50歳で博士号(社会科学)を取得。職業は非常勤講師、リサーチャー、手相鑑定士。趣味は読書。自分の持てる力を発揮して、社会に貢献できる生き方を模索中です。

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