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いじめを回避する方法ー脳科学から考えるー

2020年8月12日

平成30年度の小・中・高等学校におけるいじめの認知件数は、54万1257件です。前年度より、12万8923件の増加がみられました。ただし、この数はいじめの実数ではなく、あくまでも学校が認知した件数であること、また文部科学省がいじめ防止のために積極的に学校に対し、いじめの認知を促していることが増加傾向に影響していると考えられます。

 

図1 いじめの認知件数

出典 平成30年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」文部科学省

次に、いじめの様態を示したのが図2になります。「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」が中学校、高等学校において6割を超えています。「仲間はずれ、集団による無視をされる」をあわせて、圧倒的に心理的ないじめが多いことがわかります。また、注目したいのは、高等学校では「パソコンや携帯電話等でひぼう・中傷や嫌なことをされる」が約2割におよんでいることです。スマホやSNSの利用の仕方を話し合ったり、情報モラル教育が重要であるといえます。

図2 いじめの様態

出典 平成30年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」文部科学省

それでは、どのようにしていじめを回避することができるでしょうか。「いじめ防止対策推進法」では、全教育活動を通じて、児童生徒に「いじめは絶対に許されないこと」という理解を促すこと、定期的にアンケート調査や教育相談の実施することが、いじめの防止、早期発見の対策としてあげられています。道徳科の授業で実際にあったいじめ事件を題材にしたり、ロールプレーをすることでいじめの残酷さを理解してもらったり、先生と生徒のコミュニケーションを良好にして、相談しやすい環境を作るなどが考えられます。

私はいじめを回避する方法を検討する上で、まず人間理解が重要であると考えます。いじめだけではありません。人とつきあう上で人間とはいかなる生き物かを理解することが、自分も相手も傷つかないために大切です。中野信子さん(脳科学者)の「ヒトは「いじめ」をやめられない」(2017年、小学館新書)は、いじめが起こるメカニズムについて脳の性質から解説しています。私も誰しも、人をいじめる機能が組み込まれています。愛情ホルモン・オキトシンは仲間意識が高まると同時に妬みや排除感情も高めます。日本人は心配症のセロトニンS型遺伝子の割合が多いこと、正義の名のもとの排除行動を行い、快感(ドーパミン)を得るなど、脳内ホルモンがいじめに関わっていると説明されています。

子どものいじめ回避策としては、チーム替え等によって人間関係を薄めることや個性優先の教育、監視体制を導入し、死角をなくすなどが挙げられています。大人のいじめ回避策としては、「あの人には敵わない」と思わせることや、メタ認知力(自己理解)を高めること、素直に話す力(アサーション)を高めることが効果的だと論じています。

小学校から心理学や脳科学に関する授業が取り入れられるといいのではないでしょうか。「私の脳が人をいじめようとしている」と自分を客観的に見れれば、抑制できるかもしれません。そして、無理に誰とでも仲良くなる必要はないし、不穏な空気が漂ったら、少し距離を置くことも大切だと思います。アサーションについて、別の機会にまとめてみたいです。

  • この記事を書いた人

リリィ

36歳で大学生、50歳で博士号(社会科学)を取得。職業は非常勤講師、リサーチャー、手相鑑定士。趣味は読書。自分の持てる力を発揮して、社会に貢献できる生き方を模索中です。

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